EASTS・EASTS-Japan 合同セミナー:EASTS加盟国・地域における近年の災害対応と得られた教訓
2024年11月11日(月)に東京科学大学大岡山キャンパスにて,EASTS30周年記念行事の一環として「EASTS・EASTS-Japan 合同セミナー:EASTS加盟国・地域における近年の災害対応と得られた教訓」を開催しました.
福田敦会長(日本大学)の開会挨拶から始まり,4名の専門家によるプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われました.福田大輔教授(東京大学)は能登半島地震について,邱 裕鈞教授 (國立陽明交通大學)は台湾の地震対応について,マ・シーラ・ナパラン教授 (フィリピン大学)はフィリピンのマニラ大洪水について,石渡幹夫教授(国際協力機構,東京大学)は包括的な災害対応について,それぞれ発表を行いました.続いて行われたパネルディスカッションでは,チェ ソンキョン講師(東京科学大学)がモデレーターを行い,災害対応における社会的弱者への配慮,データ駆動型の技術活用,そしてレジリエンス構築の重要性について意見が交わされました.
1. 開会挨拶
福田敦(EASTS-Japan会長)
学術社会の役割はネットワーク構築である.自身の40年以上にわたるアジアの交通問題に関する研究経験でも,30年前のEASTS設立により,アジア研究者とのネットワーク構築が可能になった.現在は毎日のようにオンラインでアジア研究者とコミュニケーションし,共同研究を行っている.また,関係各位からのEASTS-Japanへの人的・財務的支援に対しても心から謝意を表したい.法人メンバーの皆様には,引き続きのご支援をお願いしたい.

2. 話題提供
A) 能登半島地震の事例研究
福田大輔教授が「Disaster Response and Adaptation in Rural Areas: The Case of the 2024 Noto Peninsula Earthquake」という題目で,2024年能登半島地震の被害状況,交通インフラへの影響,復旧過程について詳細な報告を行いました.特に高規格幹線道路の損傷とその復旧状況に焦点を当てた説明がなされました.

B) 台湾における災害対応
邱裕鈞教授が「Disaster Response and Adaptation-Lessons Learned from Hualien Earthquake」という題目で,台湾における地震対応と防災システムについて発表しました.特に921地震とカレン地震の比較分析を行い,防災システムの進化について説明しました.

C) フィリピンの洪水対策
マ・シーラ・ナパラン教授が「Disaster Response, Recovery, and Resilience: Flooding in the Philippines」という題目で,マニラにおける洪水被害と対策について発表しました.特に社会的弱者への配慮と避難所運営の課題について言及しました.

D) 包括的な災害対応
石渡幹夫教授が「Inclusive Disaster Recovery: Strengthening Support Mechanisms for Vulnerable Populations」という題目で,災害対応における包括性の重要性について発表しました.特に女性,高齢者,障害者などの社会的弱者への配慮について強調されました.

3. パネルディスカッション
チェ・ソンキョン(モデレーター)
- 各発表を受け,3つのテーマに沿ってディスカッションを展開したい.
- 地域の復興における協働と包摂性
- 複合災害への対応と備え
- データ活用と技術連携

テーマ1: 地域の復興における協働と包摂性
- 福田大輔教授(東京大学)
- 能登半島地震のケースでは,高齢化・人口減少により被災地での人手不足が深刻であり,地域を越えた人的リソースの連携が必要と考える.
- マ・シーラ・ナパラン教授(フィリピン大学)
- 地方自治体の能力差が,被災後の復興格差を生んでいる.市民教育と災害前の信頼関係構築が重要になると考える.
- 石渡幹夫教授(東京大学・JICA)
- 脆弱層(高齢者・女性・移民等)への公平な支援が不可欠である.その際特に,意思決定の場への多様な参加と,中間支援団体(NPO等)の役割が重要となってくる.
- 邱 裕鈞教授(国立陽明交通大学)
- 地域社会と民間の迅速な連携体制が,台湾では相対的に有効に機能している方だと考えられる.
テーマ2: 複合災害への対応と備え
- 福田大輔教授(東京大学)
- 能登半島地震に加え,9月の豪雨も発生し,複合災害への備えが今回の災害で改めて問われた.
- 邱 裕鈞教授(国立陽明交通大学)
- 台風・地震など,多重災害を見越したマルチハザード対策の整備が台湾では進行中である.
- マ・シーラ・ナパラン教授(フィリピン大学)
- 台風と地震が同時発生するケースがあり,柔軟で多層的な災害管理が必要である.
- 石渡幹夫教授(東京大学・JICA)
- 医療・交通・住居といった複数の課題が重なる複合的困難を適切な制度によって吸収する必要がある.
テーマ3:データ活用と技術連携
- 福田大輔教授(東京大学)
- 例えば,土木学会のチームでも,民間会社(トヨタ自動車)から提供された車両データを用いて道路網の回復状況を分析する試みが行われてきた.こうした,産学連携によるリアルタイムデータの活用が進むことに期待する.
- 邱 裕鈞教授(国立陽明交通大学)
- 台湾でも,AI・センサーを用いた災害監視・早期警報システムを早期から導入してきた.
- マ・シーラ・ナパラン教授(フィリピン大学)
- データ活用は行政だけでなく,市民の防災意識向上にも資すると期待される.
- 石渡幹夫教授(東京大学・JICA)
- データの「可視化される主体」と「意思決定のアクセス可能性」に対する公平性の確保が課題になると考えられる.
- チェイソン・キョン(司会)
- データを活用した評価や意思決定の迅速化には,大きな可能性があると考えられる.現場からの実践知がアジアの広域連携の土台になることを期待したい.


